【トリビア】インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮の元ネタになった文明・遺跡を解説
ディズニーシーの人気アトラクション「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」を10倍楽しくする、遺跡の元ネタをご紹介します!インディ・ジョーンズとその周辺のエリアは、1930年代のマヤ文明の遺跡発掘現場を舞台としています。アトラクションの背景となっている遺跡について、史実を合わせながら詳しく解説していきますよ。
こんにちは、学生時代にマヤ文明にハマりすぎて遺跡巡りをしに行ったライターのナカジです。
東京ディズニーシーのロストリバーデルタにある「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」といえば、2001年のパークオープンからある人気アトラクション。
考古学者であるインディ・ジョーンズ博士が発掘調査を行なっていた遺跡で、助手のパコが勝手に「若さの泉」を探しに行く観光ツアーを開催してしまい、遺跡を守るクリスタルスカルの怒りに触れたゲストが様々な災難に襲われるスリル系ライドです。
インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮とその周辺の舞台になっているのが、1930年代のマヤ文明の遺跡発掘現場です。
隠れミッキーなどのトリビアは有名ですが、今回はアトラクションの元になった遺跡について、解説してみたいと思います。
・①実はあの映画にも出てくる!アトラクションを象徴するピラミッド
・②無邪気に写真を撮ってたけど…実はちょっと怖い歴史を秘めた石像と祭壇
・③建物に入る前に注目すべき頭上のレリーフ
・④あのドクロ柄の階段にも元ネタがあるんです!
・⑤クリスタル・スカルの魔宮はそもそも雨乞いのための神殿だった?
・⑥ゲストを出迎える羽の生えた蛇、ククルカンの頭
・⑦不気味な石像は、生贄と五穀豊穣を象徴する女神
・⑧実は超レア!神秘の色「マヤ・ブルー」の壁画
・⑨ユカタン・ベース・キャンプ・グリルの石像は、ピラミッド前の石像の因縁の相手!
・⑩ゲストを襲うクリスタル・スカルにまつわる衝撃の真実
・⑪結局「若さの泉」ってどこにあるの?
アトラクションの舞台「マヤ文明」について知ろう
みなさんは、「マヤ文明」というと、どんなイメージがありますか?
ピラミッド、生贄の儀式、高度な天文や暦の知識、数学、世界の滅亡を予言したマヤ・カレンダーなどは聞いたことがあるかもしれません。
マヤ文明は北米~中米、現在のメキシコからグアテマラ、ホンジュラス、ベリーズ周辺の各地に点在した都市国家の集合体です。
古くは紀元前1000年頃から始まり、16世紀にスペイン人によって滅ぼされるまで続きました。
各都市を率いた王は神に等しい存在とされ、政治や宗教の中心でした。
「クリスタルスカルの魔宮」には時代や地方によって異なるマヤ文明の特徴がいくつも登場することから、複数の遺跡を組み合わせて作られていることがわかります。
それでは次の項目から、インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮の元ネタを検証していきましょう。
①実はあの映画にも出てくる!アトラクションを象徴するピラミッド
インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルで一番目を引くものといえばピラミッド。
これはグアテマラにある遺跡、ティカルの734年に建てられた「第一神殿」をモデルにしています。
ピラミッド上部の神殿の上にさらに飾り屋根がついているのが、ティカルなど古典期の遺跡に見られる特徴です。
マヤ文明におけるピラミッドは王の墓である場合と神殿である場合がありますが、この第一神殿にはハサウ・チャン・カウィールという王が埋葬されていました。
そして、このピラミッドの実物、実は映画『スター・ウォーズ』の第1作目『エピソード4:新たなる希望』に登場します。
反乱軍の基地があるヤヴィン4という惑星に宇宙船ミレニアム・ファルコンが着陸するシーンで、ジャングルの中から頭を覗かせているのが、このティカル遺跡の第一神殿なのです。
インディ・ジョーンズとミレニアム・ファルコンの船長=ハン・ソロを演じたのは、どちらもご存知ハリソン・フォード。
この一致、果たして偶然でしょうか?
②無邪気に写真を撮ってたけど…実はちょっと怖い歴史を秘めた石像と祭壇
さきほど紹介したピラミッドの前はフォトスポットになっており、2つの石像があります。
まず、後ろの石碑ですが、これはホンジュラスのコパン遺跡にある石像Cのレプリカです。
彫られているのはコパン13代目の王「18ウサギ」で、彼は後に属国だったキリグアとの戦争に敗れて斬首されてしまいます。
18ウサギの命を奪った人物……それはあとで解説します。
手前の石碑は、同じくコパン遺跡にある石像Dの前に置かれた祭壇をデフォルメしたもの。
この禍々しい顔は、マヤの神話に登場する山の怪物「ウィッツ」と言われていますが、詳しいことはわかっていません。
ただ、生者を食べることで死者の国=地下世界に導く存在なのではないかとする説もあります。
アトラクションの序盤、インディが背中で押さえている扉の図柄もこのウィッツである可能性が高いです。
ちなみに、この祭壇の用途は、生贄を寝かせて黒曜石のナイフで心臓を取り出すためのもの。
記念撮影の際は、寝転んだりしないように気をつけて……。
③建物に入る前に注目すべき頭上のレリーフ
アトラクションの建物に入る前に、頭上にご注目。
頭に大きな羽飾りをつけ、正面を向いて座る人物のレリーフがあります。
このレリーフは、メキシコのチチェン・イツァ遺跡にある「尼僧院」と呼ばれる建物のレリーフのレプリカです。
チチェン・イツァといえば階段の合計数が1年の日数=365になるピラミッド「エル・カスティーヨ」が有名ですね。
「尼僧院」という名前は遺跡を発見したスペイン人が後から付けたものなので、実際に尼僧が生活していたわけではありません。
レリーフに描かれている人物が誰なのかはわかっていませんが、高貴な身分の者しか身につけることができなかったケツァールという鳥の羽飾りが描かれていることから、相当な地位の人物だったことがわかります。
④あのドクロ柄の階段にも元ネタがあるんです!
ロストリバーデルタ周辺にある階段のデザインをじっくり見たことがありますか?
実は、一段一段にドクロの横顔が施されているのですが、ドクロにもきちんとモデルがあります。
③で触れた、チチェン・イツァ遺跡にある祭壇「ツォンパントリ」です。
「ツォンパントリ」とは「頭蓋骨の棚」という意味。
生贄や戦争で得た捕虜のドクロを並べて飾った場所と言われています。
同じドクロの横顔は、Qライン中盤の若さの泉の場所を示すとされる光を放つ円盤が乗った台座にも施されていますよ。
階段をじっくり見る時は人の流れや足元に気をつけて確認してみてくださいね。
⑤クリスタル・スカルの魔宮はそもそも雨乞いのための神殿だった?
アトラクション入口向かって右側に目を向けると、象の顔のような装飾が目に入ります。
この装飾は、メキシコのカバー遺跡にある「コズ・ポープ」を筆頭に、チチェン・イツァ遺跡やウシュマル遺跡にある雨の神「チャック」の顔のレリーフを引用したものです。
マヤ文明の中でも上記3つの遺跡があった北部地域は乾季と雨季があり、乾季は乾燥と日差しが強い気候のため、人々は雨を求めて神に祈りをささげました。
よく見ると、チャックの長い鼻が上に向いているものと、下に向いているものがあります。
これは、上向きが「雨を望むお願い」で、下向きが「雨を降らせてくれた感謝」を表わしていると考えられています。
もしパークにいて雨が降ってきた時には、チャックに祈りが届いたと考えてみると良いかもしれません。
⑥ゲストを出迎える羽の生えた蛇、ククルカンの頭
①のピラミッドの最下部やアトラクションの建物入口の左右の床に、羽の生えた蛇の頭があります。
この蛇の頭は、マヤの神話に登場する神、ククルカンです。
ククルカンは人間に農耕を教えたり、生贄をやめるよう忠告したりする神で、チチェン・イツァをはじめ多くの遺跡にモチーフとして登場します。
アトラクション内の壁画や装飾にも何度も出てきますね。
余談ですが、インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルのお隣のレイジング・スピリッツで水の神とされる「アクトゥリクトゥリ」にもちょっと似ていると思いませんか?
アクトゥリクトゥリは架空の神様ですが、名前の最後が「トリ」で終わる神様はメキシコ中央高原、とくにアステカの神話によく登場します。
となると、ククルカンとアクトゥリクトゥリにも関連があるかも?
その理由は次で述べます。
⑦不気味な石像は、生贄と五穀豊穣を象徴する女神
建物内部に入ると目に入る大きな石像。
この石像は、アステカ神話の女神、コアトリクエの像です。
コアトリクエとはアステカで使われた言語=ナワトル語で「蛇のスカートをはいた女」という意味です。
確かにこの像の下半身を見ると、蛇のようなものがウネウネしていますね。
手のように伸びる蛇=ケツァルコルトルは、豊作を願って捧げた彼女の血が変化したものと言われています。
一見不気味な像ですが、最盛期には数十万が暮らしたアステカの都市では、食料の不足は死活問題。
コアトリクエは生贄と引き換えに恵みをもたらす、五穀豊穣の女神でした。
この像の足元にちらばるガイコツたちは、おそらくこの像へささげられた生贄(いけにえ)でしょう。
外の祭壇で心臓を取り出され、この像の上部にある穴からピラミッド内部に投げ込まれたようです。
ここで「ん?クリスタルスカルの魔宮って、マヤ文明じゃなかったの?」と思われた方、正解です!
実はこのコアトリクエの像の他にも何点か、ロストリバーデルタにはアステカの遺物が取り入れられています。
というのも、マヤとアステカは発展した土地や時代が重なっており、神話や美術には共通点も多く見られます。
アステカの神々は、マヤの神々のいわば親戚なのです。
⑧実は超レア!神秘の色「マヤ・ブルー」の壁画
コアトリクエ像を通り過ぎると、今度はピラミッド内の壁画が目に入ります。
ここで参考にされているのは、メキシコのボナンパク遺跡の壁画です。
ボナンパク遺跡の壁画は、当時の戦争の様子などが詳しく描かれていることで有名です。
全体的に使われている青は「マヤ・ブルー」と呼ばれ、雨の神チャックや生贄を象徴する色。
発色の美しい顔料ですが、マヤ人が当時の技術でこの顔料をどうやって作ったのかは未だに解明されていません。
実は、彩色されたマヤ文明の壁画というのはとても貴重です。
石像やレリーフを残した都市は多いのですが、壁画を残した都市はそんなに多くありません。
加えて、高温多湿の環境や成長力の強いジャングルの木々に遺跡が侵食されてしまったこと、そして遺跡を発見したキリスト教徒のスペイン人がマヤの文化や信仰を野蛮なものとして遺跡を破壊してしまったこと。
これらの理由で、マヤ・ブルーが残る保存状態のいい壁画はボナンパクの他に数ヶ所しかありません。
マヤ・ブルーの壁画はファストパス発券所にもありますので、アトラクションに乗らなくても見ることができますよ。
⑨ユカタン・ベース・キャンプ・グリルの石像は、ピラミッド前の石像の因縁の相手!
インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの右手にあるレストラン「ユカタン・ベース・キャンプ・グリル」の入口付近で掘り起こされている最中の巨大な石像は、グアテマラのキリグア遺跡にある石像Eのレプリカ。
「カック・ティリウ」という名の王の姿が彫られています。
実は、②で紹介した石像、コパンの18ウサギ王を斬首したのが、このキリグアのカック・ティリウ王だったことがわかっています。
そして、ユカタン・ベース・キャンプ・グリルの店内にある調査隊のメモを記した黒板にご注目。
左下に「アブナーと一緒にコパンでステラ15との関係性を調べる」と書いてあります。
つまり、インディたちもコパンとキリグアの関係性に着目していたんですね。
実際にあったマヤの歴史ドラマをきちんと再現した細やかさはさすがです!
⑩ゲストを襲うクリスタル・スカルにまつわる衝撃の真実
マヤの遺跡で発見されたとされるクリスタル・スカルは世界に十数点存在しますが、どれも加工の跡がなく、製作方法がわからないオーパーツとされてきました。
もっとも有名なのは1927年、ベリーズのルバアントゥン遺跡で発見された「ヘッジス・スカル」で、アトラクションや映画『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』に登場するスカルもこのヘッジス・スカルがモデルとなっています。
ところが、『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』が公開された2008年、スミソニアン博物館らが複数のクリスタルスカルを再鑑定したところ、いずれも1900年代初頭にドイツで製作されていたことが判明。
ヘッジス・スカルの発見者である探検家の証言にも矛盾があり、考古学界ではクリスタル・スカルはマヤ文明に存在しなかったと結論づけられています。
とは言え、マヤは神々を畏れ敬いながら生きてきた人々の文明。これからも神聖な場所である神殿に観光客がズカズカ入れば、神々の怒りに触れることは間違いないでしょう。
⑪結局「若さの泉」ってどこにあるの?
そもそもこのアトラクションの目的は「遺跡の中にある若さの泉を見つけに行く」です。
皆さんが一番気にしている若さの泉の場所、それは車が出発してすぐ。
大きなクリスタルスカルが怒って光りだし、車が急に左折した時ほんの一瞬、正面の壁の右下に若さの泉の光がゆらめいて見えます。
ではなぜこのアトラクションの鍵は「泉」なのでしょうか。
それはマヤ文明にとって「泉(現地の言葉でセノーテ)」は、生活用水を確保する場所であると同時に、宗教儀式にも欠かせない場所だったからです。
マヤ文明にとって「あの世」とは地下にあるもので、地下から水が湧き出る泉=セノーテはあの世への入口、境界の場所と考えられていました。
実際にはマヤの人々は泉に「若返り」ではなく、雨や豊作を求めて生贄や宝飾品を捧げていたんですよ。
その証拠に、マヤ文明の遺跡周辺にあるセノーテからは、老若男女問わず人骨がたくさん出土しています。
長生きしたければ、若さの泉の場所を知っても近付かない方がいいかもしれませんね……。
まとめ
いかがでしたか?
インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮が10倍楽しくなる遺跡の元ネタを11個厳選してお伝えしました。
考古学的見地から見ても、ロストリバーデルタが非常に丁寧に作られていることが伝わったかと思います。
次にパークに行く時はぜひこの記事を思い出しながら、今まで以上に楽しんでくださいね!
【参考文献】
「マヤ文明 失われた都市を求めて」クロード・ボーデ/シドニー・ピカソ著(創元社)
「マヤ・アステカの神々」土方美雄 著(新紀元社)
「図説 マヤ文字辞典」マリア・ロンゲーナ 著(創元社)
キャステルの記事に テーマパークの最新情報をお届けします |